不動産の売却|建物売買時のリスク管理「石綿(アスベスト)」
2023/02/12
本日は、前回に引き続き不動産の売却をする際に注意しなければいけない「石綿」についてみていきましょう。
「石綿(アスベスト)」とは?
1.2005年、石綿を含有する製品を製造していた工場での労働災害の事例が公表され、その後、従業員の家族や工場の周辺住民への被害が明らかになり、石綿問題は大きな社会問題となりました。
2.石綿(アスベスト)とは、天然に産する繊維状の鉱物であり、丈夫で、熱に強く、酸・アルカリ等の薬品に強く、腐らず、熱・電気を通しにくく、他の物質とよく密着する等の優れた性質を有し、値段も安価であったため、建築材料やボイラー等の設備の部品、電気製品、自動車等に広く利用されました。
しかし、石綿の繊維は、ヒトの髪の毛の5000分の1程度で、極めて細く、ヒトが吸入すると、中皮腫や肺がん、石綿肺などの病気を引き起こす可能性があることから、段階的に規制が行われ、現在は石綿を含む製品の輸入や使用等は全面的に禁止されています。
|「石綿」と「建物売買のリスク」
1.石綿については、建築物を使用している段階から改修を行う段階、解体する段階まで、各種法令で規制が設けられています。
現在、石綿の使用は禁止されており、新築する建築物については石綿を利用することはできませんが、以前、建てられた建築物(2006年8月以前に建築に着手した建築物など)には、石綿含有建材が使用されて建てられた可能性があります。
それらの建材が損傷、劣化することにより石綿が飛散し、労働者がばく露するおそれのあるときは、労働安全衛生法及び石綿障害予防規則に基づき、石綿の除去等の措置を行う必要があります。
2.建築物の取引を行う際は、宅地建物取引業法や住宅品質確保法により、建築物の石綿の使用の有無等について、説明や表示を行う必要があります。
3.建築物の改修・解体を行う場合は、労働安全衛生法及び石綿障害予防規則、大気汚染防止法、(東京の場合)都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(東京都環境確保条例)などに基づき届け出を行い、適切な方法で石綿の除去等を行った上で改修・解体を行う必要があります。
4.以前建てられた建物を購入する方は、この建物の「損傷、劣化」「解体」をすぐには想像できないかもしれません。しかしながら、風水害の自然災害や大震災が発生して建物が破損等をすれば、不可避的に、建物の「解体・改修」が必要になる場合があります。また、そのような大きな災害でなくても、なんらかの理由で建物が一部破損する場合もあります。
さらには、使い勝手をよくしたり、使用方法の変更により、建物のリフォームを行ったりする場合もあります。
そのような場合の「解体・改修」は、健康被害を防止するため、各種法令で規制される手続を要求されるとともに、多額の費用もかかることになります。
「石綿」の存在する中古建物を購入することは「建物売買のリスク」となるわけです。
|「重要事項説明」と「石綿」
1.建物の買主が取引の対象となる建物の性状、権利関係、法令上の制限、取引条件等を十分に認識せずに契約し、そのため契約後に思わぬ損害を被るといった事態とならないよう防止する必要があります。
そのため、宅建業者は、取引の相手方に対し、契約締結の前提として認識しておくべき一定の重要事項について、売買等の契約が成立するまでの間に、書面を交付して説明する義務を負います。これが宅地建物取引業法35条であり、重要事項説明義務を定め、説明すべき重要事項を類型化して、「少なくとも」として最小限必要な説明事項を定型的に列記したうえで、宅地建物取引士が重要事項説明を行い、交付する書面に記名押印することを義務付けることにより、説明の方式を定めたものです。
2.宅地建物取引業法35条1項14号に基づき、宅地建物取引業法施行規則16条の4の3が定められています。
そして、その4号は、「石綿」のことを規定しています。すなわち、建物の売買・交換・賃借において、当該建物について「石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容」を重要事項として説明すべき、と定めてられています。
3.それでは、その規則が定める「石綿の使用の有無の調査の結果が記載されているときは、その内容」を重要事項説明するとは具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。
例えば、石綿調査結果の記録が存在する場合の「その内容」とは具体的に何を説明するのでしょうか。
また、石綿調査結果の記録が判明しない場合はどのように考えればよいのでしょうか。
以上の点につき、参考になるのが、国土交通省が定める通達「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」です。
国土交通省は具体的に次のような考え方を示しています。
① 石綿の使用の有無の調査結果の記録が保存されているときは、「その内容」として、調査の実施機関、調査の範囲、調査年月日、石綿の使用の有無及び石綿の使用の箇所を説明することとする。ただし、調査結果の記録から、これらのうちいずれかが判明しない場合にあっては、売主等に補足情報の告知を求め、それでもなお判明しないときは、その旨を説明すれば足りるものとされています。
② 調査結果の記録から容易に石綿の使用の有無が確認できる場合には、当該調査結果の記録を別添することも差し支えありません。
③ 本説明義務については、売主及び所有者に当該調査の記録の有無を照会し、必要に応じて管理組合、管理業者及び施工会社にも問い合わせた上、存在しないことが確認された場合又はその存在が判明しない場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになります。
④ なお、本説明義務については、石綿の使用の有無の調査の実施自体を宅地建物取引業者に義務付けるものではないことに留意することが大事です。
⑤ また、紛争の防止の観点から、売主から提出された調査結果の記録を説明する場合は、売主等の責任の下に行われた調査であることを、建物全体を調査したものではない場合は、調査した範囲に限定があることを、それぞれ明らかにすることも重要です。
4.現在の実務は、国土交通省が定める通達「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に沿って運用されているといえます。
最後に、同通達の考え方を整理してみましょう。
・「石綿の使用の有無の調査の結果の記録」が保存されているかどうか、が、第1ステップです。
調査結果の記録が保存されていれば、その記録から説明をし、その記録から判明しない部分があれば、売主等に補足情報の告知を求め、それでもなお判明しなければ、その旨を説明すれば、重要事項説明のうえでは足りるとされています。
・「石綿の使用の有無の調査の結果の記録」の保存が見つからない場合は、第2ステップです。
重要事項説明を行う宅建業者としては、「売主及び所有者に当該調査の記録の有無を照会」し、「必要に応じて管理組合、管理業者及び施工会社にも問い合わせ」をおこないます。
その結果、石綿の使用の有無の調査の結果の記録が「存在しないことが確認された場合」又は「その存在が判明しない場合」は、その照会をもって調査義務を果たしたことになるとされています。
つまり「石綿の使用の有無の調査の実施」自体が、宅地建物取引業者に義務付けられているものではないことが示されています。
以上が実際の取引での実務上の見解となりますが取引の安全性や後々のトラブルを防ぐためにはこれらのこともしっかりと説明したうえでお取引していただくことが重要となってきます。
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